契約書は、取引の安全性を確保し、トラブル発生時の解決基準を提供する法的文書です。特に、建設業界においては、契約不適合責任と瑕疵担保責任につき争われることが多く、この点についての定め方が重要な役割を果たします。このコラムでは、これらの責任に焦点を当て、契約書作成時のポイントを弁護士の視点から解説します。
瑕疵担保責任とは
瑕疵担保責任とは、売買契約や請負契約において売主(受注者)が負う、目的物の隠れた瑕疵(欠陥)に対する責任を指します。この責任に基づき、購入者(発注者)は瑕疵が発見された場合、契約の解除、損害賠償などの請求を行うことができます。なお、瑕疵担保責任は、令和2年の民法改正により削除されました。
契約不適合責任と瑕疵担保責任の違い
契約不適合責任は、令和2年の民法改正により導入された概念で、目的物が契約内容に適合しない場合(例えば、品質、数量、機能などが契約内容と異なる場合)に、売主(受注者)が負う責任を指します。瑕疵担保責任との最大の違いは、契約不適合責任が契約内容との適合性を基準にしている点にあります。つまり、瑕疵担保責任が隠れた欠陥に対する責任であるのに対し、契約不適合責任は契約が定める条件を満たしていない場合に一般的に適用されます。
また、瑕疵担保責任では無過失責任(帰責事由は不要)ですが、契約不適合責任では損害賠償を除き帰責事由は不要とされています。
そして、どのような請求が可能かという点にも違いが見られます。
追完(修補):瑕疵担保責任では適用されません(ただし請負契約の場合は可能)が、契約不適合責任では可能です。
代金減額:瑕疵担保責任では適用されませんが、契約不適合責任では可能です。
損害賠償:両責任ともに可能ですが、瑕疵担保責任では売主の帰責事由は不要、契約不適合責任では売主の帰責事由が必要とされています。
解除:両責任ともに可能ですが、解除の要件が異なります。
さらに、損害賠償の範囲と解除の要件についても違いが見られます。
損害賠償の範囲:瑕疵担保責任では信頼利益(欠陥がないと信じたことにより直接生じた損害)に限られますが、契約不適合責任では履行利益(履行がされていれば得られるはずであった利益)にも及ぶ場合があります。
解除の要件:瑕疵担保責任では契約の目的を達することができない場合に解除が可能です。契約不適合責任では契約不適合が軽微でない場合に解除が可能です。
その他にも様々な違いがありますが、実際に建設業界で利用されている契約書の中には、瑕疵担保責任のまま更新されていないものも多く見受けられます。
契約不適合責任トラブルを防ぐ契約書作成
契約不適合責任トラブルを防ぐためには、契約書作成時に以下のポイントに注意する必要があります。
明確な契約条件の設定:契約書には、商品やサービスの品質、数量、機能、完成時期など、契約の対象となる条件を明確に記載し、契約不適合の対象が契約書上も明確になるように具体的に定めておく必要があります。
契約不適合の定義の具体化:契約書において、契約不適合をどのように定義するかを具体的に示すことにより、双方の認識を共有することが重要です。
検収・検査の手続の明記: 商品の受領に当たって行う検収や検査の手続を契約書に記載し、不適合が発見された場合の対応プロセスを定めます。
不適合発生時の対応策:不適合が発見された際の具体的な対応策(修補、交換、契約解除、損害賠償等)を契約書に明確に定めます。この点の定めが極めて重要となります。
不適合の請求期限の定め:不適合が発見された場合に、いつまでに損害賠償等の請求を行わなければならないかの定めをすることが重要です。
弁護士による契約書作成・チェック
契約書の作成やチェックは、専門的な法的知識を要するため、弁護士に依頼することが望ましいでしょう。弁護士は、契約の当事者が意図しないリスクを未然に防ぐサポートをします。
契約内容の法的評価:契約書の内容が現行法に適合しているかを評価し、必要に応じて修正案を提案します。
リスク分析:契約内容に潜むリスクを分析し、当事者に対してリスク回避のためのアドバイスを行います。また、取引先との間の力関係も踏まえながら、どの程度のリスクを負うことになるのかを詳細に分析します。
交渉サポート:契約条件に関する交渉において、法的観点からのサポートを提供します。場合によっては、弁護士が代理人として契約条件の交渉を行うこともあります。
建設業のトラブルは弁護士にご相談ください
建設業界における契約は、その性質上、複雑で高額な取引が多く、契約不適合責任や瑕疵担保責任に関するトラブルが発生しやすい傾向にあります。こうしたトラブルに直面した場合、弁護士に相談することで、法的な解決策を模索し、最適な解決を図ることができます。契約書の作成からトラブル発生時の対応まで、法的なサポートが必要な際は、専門の弁護士にご相談ください。
Last Updated on 2024年3月25日 by ace-construction-law
この記事の執筆者 弁護士法人エースパートナー法律事務所 地元の人々が気軽に相談できる街の法律家であるとともに、豊富な事件処理経験を基に、全国の大企業や個人、官公庁からも依頼をお引き受けしています。 |